欅1

poemer96 / 2026/09/27 19:05ライトノベル#ライトノベル
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その人たちは、図書室のガラスドアの前で立ち止まった私の目の前に、高速でスライドするように現れた。

「ようこそ!新入生ちゃん。私たちはあなたを歓迎しますっ!部長のキョウコです!」
「あたしは副部長のカコ、まあ、立ち話もなんだから、ささ、こっちこっち」
「『なんだから』って言っても、カレー食べるときにライスかどっちか選べるやつじゃないけどね」

(この人たちは何者?)

 私と同じ紺のブレザーとエンジ色のネクタイの制服による、おそらくはここの生徒だろうという情報しか入手できない状態で両手を左右からがしっと掴まれ、図書室の隣の部屋に私は連れ込まれてしまった。
 あと、それって「ナン」のことですか?

春。
雪のほとんど降らないこの地域では、見た目としては木々の新芽が顔を出し始めるのが季節の移ろいの合図だ。

市内の平坦なエリアを自転車で東西に走り抜け、隣の市との境である川沿いの道を進むと勾配が次第にきつくなってくる。
電動アシストの力に助けられ、坂道を辿った先に私の入学した高校がある。
道の脇とその奥に続いてる、若い葉っぱとその根元に小さな花が咲いている欅の木の景色。
木工品の工房が立ち並び、木材の香りの粒子が川の上を流れる風に混じっている。

校門を抜けてすぐの広場の中央にはひときわ立派な一本の欅が佇んでいる。
校内は自転車に乗ってはいけないルールになっているので、その前で足を地面に下ろす。

正直なところ、何か特別な目的や目標を抱いてここに来たわけではない。
今ここに立っているのは、中学でのテストの成績で「この辺りが無難」と示された偏差値の学校を選んで受験した結果だ。
のんびりした私の性格と、おおむね変わらない両親の性格により「とりあえずいろいろな選択肢がある高校へ行くのがいいだろう」という方針は一致し、とりあえず塾に通ったりして勉強を頑張り、合格通知を受け取った。

 入学式から続く一連の慌ただしい流れをなんとかこなした私は、担任の先生から説明のあった部活の「仮入部期間」というおためし見学週間の放課後に、文化系の部室が軒を連ねる北校舎へと足を踏み入れた。

 それが、これまでの経緯である。